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トークストーリー劇場「揺れてるキーホルダー」(第三章)事故

【第3章~事故~】
ワタルがツアーに旅立ってから、1週間が過ぎた。
もちろん、毎日のように電話をかけてくれるのだが、向こうは向こうで楽しそうな音が聞こえると、余計、アパートの静けさが切なく感じるのだった。

コンビニで買ったお弁当で、一人淋しく夕食を済ませると、ただテレビを見て、寂しさを紛らわす日々が続いた。
「これでいいのかな? 本当に私はワタルの事が好きなのだろうか?」
そんな気持が芽生え初めていたのは、紛れもない事実だった。
「もう終わりにしようかな?」
そうつぶやいた、その時、携帯電話が鳴り響いた。
着信はワタルではなく、ワタルの仲間からだった。
「どうしたんだろう?」
おそるおそる耳元に電話を押し当てた。
「もしもし」


久美子の冷静な声とはまるっきり逆の、息を切らした仲間の声が返ってきた。
「久美子ちゃん、落ち着いて聞いてくれよ、たった今、・・・」
ただならぬその声に、久美子の心臓も激しく動いていた。
「もしもし、たった今、どうしたの?」
「たった今、ワタルが、ワタルが、車で事故を起こしたんだ」

一瞬言葉を疑った、がしかし、その言葉がウソではない事を、次に聞こえてきた、
救急車の音で知る事になった。
「う、うそでしょう!どうしてー、どうなの?」
その場の様子がまったくわからない電話では、つい気持ちばかりが先走ってしまい、なにを言っていいか わからなくなってしまっていた。

久美子が病院に着いたのは、真夜中だった。
体中に医療器具を付けられて、元気に家を出て行った時とは、変わり果てたワタルとの再会だった。
「どうして!? 大丈夫なんですか?」
先生に大声で泣きつく久美子の肩を仲間がそっと、おさえた。
「久美子ちゃん大丈夫だよ、まだ助かる見込みはあるから」

それから、病室を出て、星の見える待合室で、仲間から話しを聞いた。

「ワタルのやつ、突然慌てて、なにかを探し出したんだよ、
「ない、なくなってる」て言って、
そして、俺達をホテルにおろして、一人で探しに行ったんだ、なにを探しに行くのか、
何回聞いても答えてくれなくて、その途中で・・・」

久美子の頬から流れる涙に気が付くと、それ以上は言葉が出なくなった。

久美子は思いだしたかのように、病室へと走って行った。
「やっぱり・・」
ワタルの意識のなくなった右手には、しっかりと、お揃いのキーホルダーが握りしめられていた。

久美子は悔やんだ、待っている間に、このままでいいのか不安になった事や、もう終わりにしようと考えた事が、自分でも悔しかった。
そして、お守りのはずだった、キーホルダーのせいで、こんな事になってしまった事を悔やんだ。

「やっぱりイヤだ、死んじゃイヤだ」
もう好きな気持ちなんてないと思っていた、久美子の心に、押し寄せてきた、悲しみが、まだこんなに大好きで、そして愛していたんだという事を気付かせてくれた。

「ねえ、目をさまして、ワタル! ほら、星がきれいだよ、ワタルが好きだった星が見えるよ!」

何度呼びかけても、答えてはくれない、ワタルの横顔に、
久美子の瞳から流れ出る涙は、
とまる事がなかった。
『オリオン』


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